Vol.3 インプロヴィゼーションとユーモア

「インプロヴィゼーションとユーモア」というキーワードをいただいて、ジャズの立場から考えてみる。インプロヴィゼーションつまり即興を最も大事な要素として現在に残している音楽はジャズだけで、そのジャズ演奏家には面白好きが多い。たとえばジャズ出身のドラマーで『メリー・ジェーン』という名曲を作った歌手の、つのだ☆ひろは笑い話の作者でもある。「演奏中にどこをやっているのか分からなくなったドラマーがベーシストに聞いた。今どこ今どこ。ベーシストが答えて、厚生年金会館、厚生年金会館」まさかとは思うが実話のようでもあるこういう話をひっきりなしにする。しかし彼の即興演奏が同じようなユーモアを表現するのかというとそうではなくむしろ非常に真面目な演奏だ。

わざとユーモアを感じさせるような冗談音楽やパロディ音楽はあるが、それは即興とは異なる。クレイジー・キャッツが『ラプソディ・イン・ブルー』をやっているフィルムを見たが、途中のワンフレーズをとらえていきなり当時流行っていたマンボの『セレソ・ローサ』になってしまう秀逸な場面があった。これは綿密に計算された結果だ。こういうものとは別に、即興で演奏にユーモアを取り入れるという現象はあるのだろうか。

すぐに思いつくのは「引用フレーズ」で、誰でも知っているメロディを即興の中にはさんで聴き手をにやりとさせる。それも含めて、ぼくは以前はソニー・ロリンズの演奏によく笑った。標準的なジャズのフレーズの断片を異常に拡大して表現しているその逸脱性に打たれたのだ。「何だこれは!」という驚きと喜びが同時に笑いをもたらすことを知った。

ジャズ音楽に残る即興の腕比べの時に、とっさに変なことをやるという事は起きる。映画『嵐を呼ぶ男』では競い合うドラムの演奏中に主人公が急にマイクを持って歌いはじめる。ドラム奏者の立場を放棄するという劇的な逸脱で、これにはロリンズの時とは別の意味で笑うしかないが、これも即興演奏を上手く利用した場面なのだ。つまり即興には普通規則があるが、その規則は即興であるが故に個人によってその場で変形されあるいは破壊される可能性が常にある。その結果表現されるものはユーモアだけではないが、日常の規則からの逸脱という現象の中にユーモアが存在するのも事実だ。

インプロヴィゼーションとユーモアを繋ぐキーワードとして「逸脱(デヴィエイション)」を提示するのは間違いではなさそうだ。

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