プロフィール

関口 敦仁(せきぐち あつひと)
情報科学芸術大学院大学学長、メディア表現研究科教授、美術作家。
1958年東京生まれ。東京芸術大学美術学部卒業および大学院修了。2001年4月より岐阜県立情報科学芸術大学院大学メディア表現研究科教授。2009年4月、情報科学芸術大学院大学学長に就任。メディアを利用した視覚造形認知の研究、メディアアーカイブ研究、また、身体におけるインタラクションを活用した表現研究などを行なっている。
1.メディアアート作品のプラットフォームの変化
メディアアートの初期の作品には、メディア・インスタレーションと呼ばれるタイプのビデオ・インスタレーションから大型のプロジェクション機能や初期のVR機器を利用した作品が多かったが、近頃はソフトウェアを中心とした開発やユビキタス・コンピューティングをテーマとした作品、社会のあり方をテーマにしたウェブコンテンツをベースに文化活動を行なうグループが生まれている。それは、技術が発展し、作品のフレームとして使用できる装置にバリエーションが出てきたからこそである。

『Wii』© 2007 Nintendo
たとえば、文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門で受賞したソフトを輩出している任天堂のWiiやDSなどのエンターテインメント機は、ゲーム制作者にとって、ソフトウェアにおいてアイデアで差別化を図るための開発環境としても極めて魅力的だといえる。
Wiiは手で持つデバイスを中心として、人の動きを取るための加速度センサや、さまざまな動きを取得するための工夫がなされているし、DSは画面がふたつあることで、人の視覚的認識能力を最大限に活かすことができる。これらがこの2機種のコンテンツをよりおもしろくしている点であることはすでに承知の事実だ。一方で、この2機種の成功は、すでにこの種のセンシングシステム開発を行なっていた研究者やクリエイターに、先を越されたという思いとすでに社会的ニーズができあがりつつあるという安心感を与えている。そして、このようなシステムを支えている電子部品の扱いやすさや小売り流通の拡大、これらの開発をささえるキットの発表などによって、すでにWiiのようなエンターテインメント機を個人の趣味でつくりだすことは可能となってきている(個人的には、PSPをつくりだすことのほうがかっこいいとは思うけれど、製品としてはパーソナライズ可能な閾値(しきいち)がほんの少しだけ異なっている)。

『TENORI-ON』© 岩井俊雄 / ヤマハ株式会社
つまり、現在はさまざまなメディア系プラットホームの開発環境が普及しているので、個人で「家電のようなエンターテインメント作品」をつくりだすことがすでに可能なのだ。そんな、プラットホームとして可能性のあるプロダクトもすでにいくつか存在する。たとえば第12回文化庁メディア芸術祭の大賞受賞作品である岩井俊夫氏の『TENORI-ON』がそう。これは岩井氏が初期の作品発表段階から温めていた作品の製品化、あるいは製品化された作品であろうか。彼自身の能力からすれば、製品化しなくても個人の作品として制作することも可能だっただろう。しかし、彼はこれを市場に出すということに以前からこだわりを持っていたと思われる。それが彼のアーティストとしての立ち位置だ。この作品を誰もが使用できるオープンでフラットなディバイスと考えてみれば、これもひとつの新しいメディアアートにおけるプラットフォームとしてのあり方と考えることもできるだろう。




作品をつくるといえば、キャンバスに絵の具というのが従来のイメージかもしれない。しかしながら、メディアアートは新しい技術を使っていくという点で、その制作方法も大きく異なる。では、メディアアートをつくるというのはどういうことだろう。そんなものづくりの現場について、4月に情報科学芸術大学院大学(以下、IAMAS)の学長に就任された、美術家の関口敦仁さんから、今のメディアアートの現状とアーティストを目指す人へのアドバイスを頂いた。