子どもが楽しそうに円錐形のオブジェを触る。すると、オブジェの影がいろんなかたちに変形し、子どもの影と混じりながら床に投影される……。観客のだれもが気軽に触れることができ、作品自体が人と人とをつなぐインターフェースになることを目ざした『KAGE』という作品は、第1回文化庁メディア芸術祭デジタルアート[インタラクティブ]部門大賞を受賞した。作者の近森基さんと久納鏡子さんは、受賞後、どのようなコンセプトで、いかなる作品をつくっているのだろうか。おふたりの現状について、話をうかがってみた。
――おふたりにとっての「インタラクティブアート」とは?
近森:僕たちの場合は、「職業は何ですか」と聞かれると、とりあえず「アーティストです」とこたえるんですが、そこから先の説明が長くなってしまいます。
久納:つまり、「インタラクティブアートとは何か」といわれても、ひとことでは言えないんですよ。
近森:昔でしたら、「インタラクティブに人が介在してできあがる作品」でよかったのですが、いまはもっと複雑になっていますからね。私たちも自分たちがやっていることを、「インタラクティブアート」と呼んでいませんし。
久納:簡単に説明してしまえば、「観客が参加できるアート作品」だったり、もう少し大きなくくりでいえば「メディアアート」ということになるのかもしれません。
――では、「メディアアート」との出合いはいつごろだったのでしょう。
近森:メディアアートそのものではありませんが、小学校のときに見た「遊びの博物館」というイベントです。錯視やレーザー光線などを使ったイベントで、いまもカタログを持っています。そして、朝日新聞社時代にそのイベントをプロデュースされて、その後、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)で教鞭をとられていた坂根厳夫先生(*1)に出会いました。彼の「現代芸術論」という授業を取ったのがきっかけで、いろいろなジャンルのアートと出合うことができました。そのうちのひとつが、メディアアートだったのです。
久納:ですから、「これはメディアアートです」といわれる前に、坂根さんから「こういうおもしろい作品もありますよ」とか、「アートとテクノロジーが融合してこんな表現が可能になる」というかたちで紹介されたんですね。それで、「こういうアートのかたちもありなのか」と気づきました。
近森:大学3年になって、藤幡正樹(*2)さんのゼミをとりました。坂根さんは、評論家として外側からアーティストや作品を見ている方でしたが、藤幡さんは自身がアーティストなので、どのような姿勢で作品をつくるべきかという内側の話をしてくれました。この授業に参加したころから、真剣に物をつくることを考えはじめましたね。
久納:いろんな人がいて、いままで自分のまったく関知していなかった新しい分野のことを教えてくれる。学生時代は、SFCにそんな印象を持っていましたが、実際にそのありがたさに気がついたのは、ずいぶんあとになってからのことです。

(*1)坂根 厳夫(さかね いつお)
朝日新聞社記者・編集委員を経て、1990年4月〜96年3月、慶應義塾大学環境情報学部教授就任。その後、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー学長、情報科学芸術大学院大学学長、2003年4月より情報科学芸術大学院大学名誉学長就任。科学と芸術の境界領域における創造活動をテーマに、マスメディア上で評論、エッセイを執筆。同時に境界領域を結ぶアート展の企画プロデュースに数多く携わる。
(*2)藤幡 正樹(ふじはた まさき)
メディアアーティスト、東京芸術大学大学院映像研究科長。1996年には、ネットワークで結ばれた仮想の部屋がテーマの『Global Interior Project 2』でアルスエレクトロニカのインタラクティブ・アート部門、ゴールデン・ニカ賞を受賞。また、インタラクティブな本『Beyond Pages』がアメリカやヨーロッパを巡回してドイツZKMのパーマネントコレクションとなる。近年の作品では『ルスカの部屋』や『モレルのパノラマ』 のほか、GPSを用いたプロジェクト『Field-Works』シリーズなど。
参考:Meister Box/Media Arts Meister Vol.1 藤幡 正樹
――作品の着想は、いつどこで得るのでしょうか?
近森:僕たちのように会社という形態で仕事をしていると、たえずいくつかのプロジェクトを並行して行なうことになります。たとえば、クライアントがいれば、提案されたイメージに近い作品をつくる。美術館の展示であれば、限定された場所のなかで何をつくるか考える。他方、個人の作品としてつくるものもあります。そして、それらの作品が個別に着想を得ているのかといえば、けっしてそうではありません。それぞれの作品の着想が、その他の作品に影響を与えています。また、僕たちは何人かで作品をつくっているので、個々の作品にだれの着想が影響しているのかを限定するのは難しいです。

――作品をつくるなかで苦しかったことを教えてください。
久納:普通のアーティストでしたら、作品をつくるために思考したり、新しいものを生みだす過程が苦しいんだと思います。ところが、メディアアート系のアーティストは複数で作品をつくったり、みずからマネージメントをしたりする場合が多いので、作品以外にもさまざまなことを背負っちゃうんですよ。お金のこと、輸送のこと、技術的な問題、プロジェクトの進行管理、などなど……。つまり、ひとつのプロジェクトごとに、いろんな種類の苦労を抱えているのが実状なんです。
近森:あと、僕たちの作品は、インスタレーションのように「現場」でつくるものが多く、事前につくりあげたものを現場に持っていくわけではありません。要するに、不確定な要素の多い現場で、限られた時間で作品を仕上げねばならない。それが、もっとも大変なことですね。先日パリで個展を開いたのですが、僕らは準備段階で会場を見たことがありませんでした。ですからパリに行く前に、さまざまなトラブルを想定し、できるかぎりの準備をしたんです。それでも、現場に行ってみたら足りない部品が出てきて、パリ中を車で走って部品を探すことになったりしました(笑)。
――それは大変でしたね(笑)。では、逆に楽しかったことは?
近森:現場で作品を仕上げ、それが完成したときはうれしいです。とはいえ、僕らの作品は、お客さんと触れあって価値が生まれるものなんですよ。だから、会場がオープンして、お客さんが作品を見たり触ったりする、その反応を見ている瞬間は楽しい気分になります。
――文化庁メディア芸術祭に応募した動機を教えてください。
近森:SFCのあと、筑波大学大学院に行きました。修士2年のときに、いったんは修士論文を出したのですが、「このまま卒業して就職するのがいいことなんだろうか」と思い悩んだ結果、論文の提出を取り消して、修士にもう1年残ることにしました。その後の1年は、「就職以外の道を切りひらかなければならない」という課題のもと、作品を外に向けて発表しまくりました。そのなかのひとつが、文化庁メディア芸術祭だったんです。同祭の「インタラクティブ」という作品部門は、まさに僕たちの作品のコンセプトに合っていました。
――そして、見事に大賞を受賞された訳ですが、受賞後に手がけられたお仕事を教えていただけますか?
近森:いろいろありますが、あえて挙げるとしたら、2001年にハラミュージアムアークでの個展に際して制作した『Tool's Life 〜道具の隠れた正体』です。テーブルの上の道具を触ると、影が飛びだすという作品ですね。あとは、同年につくった『Kage's Nest 〜かげの棲み家』でしょうか。光の広場に足を踏みいれると、自分の影から得体の知れない影が飛びだしては消えていく、という作品です。
――受賞をきっかけに、仕事の幅は広がりましたか?
近森:受賞当時は、まだオファーが来てつくるような仕事はしていませんでした。仕事ではありませんが、受賞がきっかけとなり、奨学金をもらって海外で勉強できましたよ。
久納:1996年から私と近森は共同制作をやっていましたが、その後、ほかの方も関わって作品をつくったりするうちに、ユニット名が必要だと思いました。こうして2000年にユニット「minim++」が誕生し、2004年にユニットを会社組織にするのにあたって、「plaplax(プラプラックス)」という名称に改めました。本格的に外からの仕事が来だしたのは、2000年以降のことでしたね。
――第1回文化庁メディア芸術祭デジタルアート[インタラクティブ]部門大賞を受賞した『KAGE』をはじめ、影を題材にした作品を多く手がけていますが、おふたりにとって「影」とはどんなものなのでしょうか。
近森:メディアアートの視点からいうと、「影絵」というものが映像の原点である、ということがいえます。写真にしろ映画にしろ、原点は影ですから。その影を、現代の新しい技術を駆使したうえで、どれだけ自由に表現できるのかを考えることが、僕らのスタート地点にあります。
もう一点は、影は存在の証明であり、現実だということです。そして、僕らの作品に触れることにより、観客が自分の存在の投影である影というものに気づき、いま自分が現実に存在するということに気づく。このように、影が現実と自分とをつなぐインターフェースであることを、作品をとおして観客が体験することには、大きな意味があると思っています。
画面で映像を見ているだけではなく、観客みずからが作品に介在することによって何かが生まれる。そういった、インタラクティブ作品でもっとも重要な要素が、影のなかにはあったということですね。
久納:「存在しているのが自明であるにもかかわらず、その存在が不確かなもの」、そういうものに興味があって、そういうテーマで作品をつくっています。「影」もそうですし、他の作品であつかっている「匂い」や「足跡」もそうです。




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