子どもが楽しそうに円錐形のオブジェを触る。すると、オブジェの影がいろんなかたちに変形し、子どもの影と混じりながら床に投影される……。観客のだれもが気軽に触れることができ、作品自体が人と人とをつなぐインターフェースになることを目ざした『KAGE』という作品は、第1回文化庁メディア芸術祭デジタルアート[インタラクティブ]部門大賞を受賞した。作者の近森基さんと久納鏡子さんは、受賞後、どのようなコンセプトで、いかなる作品をつくっているのだろうか。おふたりの現状について、話をうかがってみた。
『KAGE』1997年(2007年再制作)
――代表作品の『KAGE』とその後の『KAGE』シリーズとを比較すると、大賞受賞時からすこしずつバージョンアップしているように思えますが、具体的にはどのように変化しているのでしょうか。
近森:受賞してから、センサーの技術的な側面についてはたえず考えていますし、作品をつくるたびに変更し続けています。たとえば、初期のコーン型オブジェはプラスチック製だったため、先端の金属部分に触らないとセンサーが反応しなかったのですが、現在のオブジェは金属製なので、オブジェのどこを触っても反応するようになりました。初期と現在の作品を比べてみると、見た目はほとんど変わっていませんが、技術的な側面は大きく変わりましたね。もちろん、一気に変わったわけではなくて、試行錯誤を繰りかえしながら、すこしずつ変わっているのですが。
――公共空間や商業スペース、そしてイベントなどでの空間演出など、幅広い活動をされていますが、オファーがあってつくるものと個人でつくるものとでは、制作の方法や心構えが違ったりするのでしょうか。
近森:個人でつくる作品は、僕らが自分で何をつくるのかを考えなければなりません。よって、自分の頭を使って思考しますし、苦悩することもあります。そして、僕だけでは解決が困難な問題が発生したときには久納に相談するし、久納が僕に相談することもあります。いっぽう、オファーがあってつくる作品は、クライアントが何をつくりたいのかを的確に把握することが重要です。いわば僕らがクライアントに「問診」しながら、作品のイメージを固めていかなければなりません。このような点が、個人でつくる作品とオファーがあってつくる作品の違いでしょうか。

『Tool's Life <made in tsuruoka>』で使用したタッチセンサーボックス
――影響を受けたり刺激を受けたりしたアーティストは?
近森:藤幡正樹さんですね。いまだに作品をつくると、「これ、藤幡さんに見せられるかなぁ」と思ったりしますから。
久納:アーティストとして生きる際に、どういう視点で物を見たらいいのか。また、どういうふうに物と対峙したらいいのか。何を疑い、何を信じたらよいのか。何を追求すべきなのか。私たちは藤幡さんから、作品をつくる技術のみならず、アートと向きあう姿勢のようなものを教わりました。だから、いまだに大きな影響を受けているんですよ。
近森:物をつくるときに、「なんとなくこんなかたちに……」などといってしまうと、藤幡さんに「そのかたちには、どんな意味があるの。何をつくりたいの」と追求されてしまうんです。追求されているうちに、物をつくるときにはたえず意識的でなければならないということが、僕らの心にたたき込まれたんですね。
――いままでつくった作品を振りかえってみて、共通点や一貫している点があったら教えていただけますか。
久納:作品をつくるときの意識として持っているのは、私たちの作品はけっしてメディアアート好きの人のためにつくっているのではない、ということです。アートに関心がないお年寄りから子どもまで、だれもが気軽に触れられて、体験した人が「おもしろかったね」とか「不思議だね」と思いながら帰っていけるような作品。通りがかりの人がちょこっと作品に触れて、何かを感じてもらえるような作品。そういった体験ができるものでなければ、つくる価値がないと思っています。
近森:作品づくりには、最先端の技術を使うことも重要ですし、新しいコンセプトを打ちだすことも重要です。とはいえ、もっとも重要なのは、だれにでも作品を受けいれられるような「間口」なんだと思っています。まずは作品と触れあってもらい、楽しんでもらう。そして、さらに作品を深く見てもらうと、そこには僕らが表現したいものの意味が込められている。そういった姿勢は、これまでの作品に共通していますね。

――今後はどのような作品を手がけていきたいですか?
近森:作品というには少し大きいのですが、いつか公園をつくってみたいです(笑)。たとえば、イギリスでは貴族の荘園に対して、市民の公園というものが登場しました。産業革命後、市民が主役になったときに、市民のための場所として公園があらわれたんです。人と人の関わる場所として、街で重要な役割を担っていた公園も、いまやないがしろにされています。だから、公園には本来の機能を取りもどしてほしいと思っていますし、そこで僕たちのメディアアートができることもあるのではないか、と真剣に考えています。
久納:私たちが作品をつくりはじめたころは、メディアアートの作品は暗い場所や屋内でなければ設置できないというように、制限が多かったんですよ。ところが、技術の進化によりだんだん制限がなくなってきた結果、メディアアートの作品がパブリックな場所にも設置されるようになりました。だれもが作品と触れられて、楽しめて、関われるような場所の象徴。それが公園なんです。




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