ペーター・フィッシュリ&ダヴィッド・ヴァイス 『ラット アンド ベアー』
3年に1回、横浜を舞台に行なわれる、日本最大の現代アートの祭典「横浜トリエンナーレ」。今年で3回目となるこのフェスティバルが、9月13日(土)から開催されています。今回のテーマは「タイムクレヴァス(時間の裂け目)」。25の国と地域から72人のアーティストが作品を発表していますが、パフォーマンスや、映像作品が多いのが特徴です。また会場は、新港ピア、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)、赤レンガ倉庫1号館、三渓園と、横浜のさまざまな時代を代表する4つの場所に分かれています。
中谷芙二子の霧のアートを体験できる三渓園や、パフォーマンスの舞台となる赤レンガ倉庫など、それぞれの場所で見どころがありますが、今回は、メイン会場である新港ピアと日本郵船海岸通倉庫の展示を紹介します。
横浜港でもっとも長い歴史を刻む新港ふ頭に、竣工したばかりの新港ピア。この会場では23組の作家の作品を見ることができます。なかでも大きな期待が寄せられていたのは、トリエンナーレのポスターのビジュアルにもなっている、ペーター・フィッシュリ&ダヴィッド・ヴァイスによる『ラット アンド ベアー』の映像作品。ネズミとパンダのような生きものの着ぐるみが、豪華なお屋敷のなかで追いかけっこなどをしています。しかし、一見楽しそうな映像には独特の浮遊感があり、流れる音楽もどこか不穏。彼らに何が起こるのか?かなり謎めいた作品です。でも、会場の別の場所ではこの2匹が気持ちよさそうに昼寝をしていたのでした。
ペーター・フィッシュリ&ダヴィッド・ヴァイス 『ラット アンド ベアー』
同じく映像作品で印象的だったのは、マイク・ケリーの『キャンドル・ライティング・セレモニー』。スクリーンの前には祭壇がしつらえられ、ろうそくに火をともす宗教的な儀式の映像が流れています。しかしナチスの党員のような若者たちが歌っているのは、「痩せた子より、太った女の子がいい」というラップ・ミュージック。宗教から歴史、ダイエットまで、さまざまなテーマがミックスされた作品でした。
マイク・ケリー 『キャンドル・ライティング・セレモニー』
また、ポップで楽しい映像作品といえば、子ども向けのテレビ番組のような人形劇仕立てで、マルクス、スターリン、毛沢東と、社会主義の指導者たちが繰りひろげる、愛と感動?の物語、『ベイビーマルクス』。彼らがノリのいい音楽に合わせて登場するオープニングが秀逸です。ひと昔前なら冗談では済まされなかったテーマが、これだけユーモアと皮肉のきいた映像作品になるとは…!これも今回のトリエンナーレのテーマ「タイムクレヴァス」を体現した作品なのかもしれません。
ペドロ・レイエス 『ベイビーマルクス』
インスタレーションでは、ケリス・ウィン・エヴァンスの『あ=ら=わ=れ』が忘れがたい作品。裏が鏡になった円盤型のスピーカーが、モビールのように揺れています。このスピーカーは、サウンドを特定の場所に届けるシステムを内蔵しているそう。ゆれる鏡のなかを歩きながら、作品と対話しているような気分になりました。
ケリス・ウィン・エヴァンス & スロッビング・グリッスル 『あ=ら=わ=れ』
しかし、この会場で、ひときわ来館者の興味をひいていたのは、ジョグ・ジャカルタのアーティスト、クスウィダナントa.k.a.ジョンペットの、肉体のない楽隊のインスタレーションかもしれません。室内の映像にあわせて、楽隊が自動演奏するこの作品は、ジャワの伝統的な軍隊にインスピレーションを得てつくられたもの。ジャワには、兵士の幽霊が軍歌を演奏しながら行進する、という都市伝説があるそうで、それを聞くと、この肉体のない楽隊は、まさに幽霊の行進のように見えてくるのが不思議でした。
クスウィダナントa.k.aジョンペットのインスタレーション
ふだんはBankART Studio NYKという名前で、アーティストたちの制作の拠点となっている日本郵船海岸通倉庫。こちらでは、マシュー・バーニー、オノ・ヨーコ、中西夏之などの大御所たちを含め、21組の作家の作品を見ることができます。
まず、たいへん美しかったのが勅使河原三郎のインスタレーション、『時間の破片』です。初日には、勅使河原自身と佐東利穂子が、交互に6時間にも及ぶダンス・パフォーマンスを繰りひろげたこの作品は、無数のガラスの破片が壁につき刺さり、床にも敷きつめられた部屋です。暗闇で待っていると次第に光が満ちあふれ、ガラスに反射するさまざまな光とあいまって幻想的な表情を見せてくれます。耳を澄ますと、破片たちのサウンドも聞こえてきて、いつまでも体感していたい作品でした。
勅使河 原三 『時間の破片―Fragments of Time』
次に2階で目につくのは、女性パフォーマーの先駆者であるジョーン・ジョナスの大がかりな映像インスタレーション、『物のかたち香り感じ』。ネイティブ・アメリカンとともに生きたコヨーテが、彼らの神話的世界や、ヨーロッパからの入植者たちが彼らに押しつけてきた文明の歴史の世界をめぐります。
ジョーン・ジョナス 『物のかたち香り感じ(ベルリン・バージョン)』
また、小杉武久の『レゾナンス』は、サウンドセンサーや光を使ったインスタレーション。耳をすますと、カエルのような自然界の動物の鳴き声が聞こえる作品も。ささやかなアートがかえって心にしみるかもしれません。
小杉 武久 『レゾナンス』
もうひとつ幻想的な作品は、3階に展示されていたポール・チャンの『6番目の光』。床に投影された窓枠のような映像には、人間やビン、また雲のようなカタチが、次から次へと映しだされます。しかし、窓枠さえも破壊される「何か」が起こり、部屋には暗闇が訪れます。いったい何が起こったのか?それはさだかではありませんが、タイトルの「6番目の光」とは、もしかしたら、核戦争などで発せられる恐ろしい光線なのかもしれません。
ポール・チャン 『6番目の光』
最後に、今回の横浜トリエンナーレは、パフォーマンスが多いのが特徴。パフォーマンスをご覧になりたいかたは、ホームページで時間と場所を必ずチェックして、会場に足を運ぶようにしてください。大巻伸嗣のしゃぼん玉のパフォーマンス『Memorial Rebirth』などは、当日会場に行くと、その日どこで行なわれるのかを教えてくれるでしょう。










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