長谷川 祐子
東京都現代美術館 チーフキュレイター
展覧会タイトルにある「トロピカリア」とは、ブラジルで60年代に起こった、音楽、文学、アート、ファッションも巻きこんだムーブメントのことです。1920年以来、ブラジルのアーティストは、欧米のモダニスムを取りいれて創作活動をしてきましたが、「自分たちの文化的アイデンティティは、ブラジルのジャングルやトロピカルな風土のなかから生まれてきた」と考える若いクリエイターたちが現れました。彼らは「ジャングルに住む野蛮人たちがつくる新しいモダニスムの創造」を提唱して、それを「トロピカリア」と命名しました。
最初に『トロピカリア』という作品をつくったのは、エリオ・オイチシカです。彼は、美術館のなかに砂で覆われた熱帯の小道をつくり、それを突きぬけ、バラック小屋を通りぬけると、最後に文明の利器であるテレビがつけっぱなしの状態で置かれている、というインスタレーションで、視覚的、触覚的なトロピカル体験と、自分たちのリアリティを表現したのでした。ブラジルに住む者ならではのオリジナリティや環境・社会問題を、アクティブに日々の生活と関わらせてそれを一般の人にも浸透させようとする…。このような動きがアートにおける「トロピカリア」なのだと、私は理解しています。

- エルネスト・ネト
『(リヴァイアザン・トトー指より)リキッド・フィンガー・タッチ』2008
日常生活や人々との関わりを意識した、このオイチシカのトロピカリアの精神は、エルネスト・ネト、べアトリス・ミリャーデス、マレッペ、アナ・マリア・タヴァレスなど、90年代以降に登場してきたアーティストたちに受け継がれました。ただし、彼らはすでにグローバルな要素を持ち、国際的に活動しています。もともと「トロピカリア」とは、非欧米圏の国が近代化の過程で、自らのアイデンティティや国際化時代に生きる自分たちのポジションを模索した結果の提示でした。しかし、「ネオ・トロピカア=新しいトロピカリア」のなかに生きるブラジルのアーティストたちは、グローバルでローカル、つまり「グローカル」の二重性のなかで、生きることとつくることを、絶妙なバランスで同時に体現しているのではないでしょうか。














![vol.16 池田亮司+/−[the infinite between 0 and 1] vol.16 池田亮司+/−[the infinite between 0 and 1]](/museum/oste/vol16/images/bn_vol16.gif)

















