山中俊治氏の頭蓋骨を3Dスキャンしてつくった模型
「骨・骨格」
それは、私たち人間を含めたすべての生き物にとっての要。骨があることで、初めて複雑な構造が可能となります。
デザイナー・エンジニア両方の視点を持つプロダクトデザイナーの山中俊治は「デザインは形や色だけではなく、ものづくりの根源、構造から考えないといけない」と常々感じており、今回、3年越しで「骨」をテーマにした展覧会を行なうことになりました。
はっきりと明記はしていませんが、会場はさまざまな骨を集めた「標本室」と骨をテーマにした作品から成る「実験室」のふたつに分かれています。
標本室では、自然界の骨の機能美、工業製品の骨について考えさせられます。ダチョウの骨の標本に始まり、カメやペンギンの骨の写真は見るだけで美しいものです。その近くには、椅子がバラバラになって展示されています。ふだん見慣れているはずの椅子ですら、改めて観察してみると、さまざまなパーツから成り立っており、構造がむき出しになっているデザインだということを再確認します。
ニック・ヴィーシーの作品。写真集『X-RAY』より
次に、動物、植物、家電や洋服などをX線やスキャナーで撮影した作品で知られる写真家、ニック・ヴィーシーの作品が並んでいます。このようにX線で工業製品の中身を見てみると、実に整然とした構造で美しい。まるで、生き物のようにも思えてきます。ほかにも、時計、携帯電話、洗濯機などの中身が分解されて展示されており、小さな機械のなかにこんなにも部品が秩序立って組みあわされていることに改めて驚かされます。骨をテーマにした展覧会で、工業製品が置いてあると聞くと一瞬違和感を覚えるかもしれません。しかし、実際の構造を見ると納得。確かに、そこには「骨」があるのです。
腕時計も分解してみると違って見える
標本室を抜けると、10組の作家による作品が展示されている実験室があります。ほとんど、今回のためにつくられた新作で、ディレクターの山中俊治がクリエイター一人ひとりに会い、「骨」をテーマに制作してもらったものです。
エルネスト・ネト『私たちがここにいる間』(2008)
伸縮性のある布を使ったインスタレーションで知られる、ブラジル出身のアーティスト、エルネスト・ネト。『Mientras estamos aquí (While we are here)』(私たちがここにいる間)は、エルネスト・ネト初めての建築的な作品です。骨のような形の木製のパーツを組みあわせてドーム型にし、そこにストッキングのような伸縮性のある布を被せています。側面には入り口のような穴が開いていて、なかに入ることができます。そのドーム型のテントのようなもののなかに入ると、何だか守られているような気がして、不思議と落ちつきます。真ん中にある突起には小麦粉が入っており、テントの裾にはビッチリと米が入っています。家のような建物に食べ物が実装されていることで、さながら避難用シェルターのようにも見えますし、私たちが生きていくうえで欠かせない、衣食住のうちの食と住を充たす、生活の「骨組み」となる空間だともいえるかもしれません。
明和電機『WAHHA GO GO』(2009)
明和電機の『WAHHA GO GO』は“笑う”という感情とそれに伴う行為に注目し、笑うという身体運動だけを取りだしてつくった作品です。蛇腹の肩をもつ人型の機械が、奇妙な音をたてて笑う。その一見不気味なようすは、笑う行為がポジティブとネガティブの両方の場面で用いられる事実と重なり、“笑う”という現象の複雑さに改めて気づかされることになりました。明和電機の土佐信道はこの装置を「笑う骨」と名づけています。“笑う”という現象に力学的構造のみでアプローチしたことで、感情と骨と表現の関係性を新たな視点から見つめなおしています。また、自分が車輪を回すことにより、装置が笑うというのは単純におもしろい。誰かを笑わせるということが嬉しかったり、逆に、笑われることで傷ついたり。作品と向きあうときの精神状態で感じ方はいろいろでしょう。
緒方壽人+五十嵐健夫『another shadow』(2009)
緒方壽人と五十嵐健夫による『another shadow』という作品は、巨大なスクリーンの前を通った人がモニタリングされて影として投影され、その姿が図形で表されてフリーズし、別の動きを始めます。私たちがふだん、骨について意識することはそうそうありません。しかし、そっくりそのまんま象られた自分のシルエットが図形化され、人間とは違った別の構造を与えられた影が自由に動きだす。そんな作品を見ると、おのずと骨や構造について意識することになります。自分がつくった影が、少しの間ではありますが、まるで意思を持ったのかのように自在に動くのを見るのはとてもおもしろく、それを実際に身体で感じられるため、よりパーソナルな体験となります。
前田幸太郎『骨蜘蛛』(2009)
そのほかにも、トラス構造体が画面のなかでゆっくり落下、破壊していくTHA/中村勇吾の『CRASH』、加重によってベンチの骨にランプがつくインタラクティブ作品、 MONGOOSE STUDIOの『Galvanic Frame』、玉屋庄兵衛+山中俊治の『骨からくり「弓曵き小早舟」』、あるはずのない骨をあるかのように見立ててつくった前田幸太郎の『骨蜘蛛』などが展示されています。
手前:玉屋庄兵衛+山中俊治『骨からくり「弓曵き小早舟」』(2009)、奥:THA/中村勇吾『CRASH』(2009)
会場は、トラフ建築設計事務所による設計で、建物の骨である柱からインスパイヤされた、木の柱で構成されています。その柱が、ゆるやかに作品同士を区切り、スペース全体に「骨組み」という印象を与えています。
会場全体の様子
展示の案内システムは、ディレクターの山中俊治率いる「リーディング・エッジ・デザイン」が担当。『on the fly』というデバイスは、単なる展示案内を超えて、ひとつの作品として成立しています。これは、紙のうえに、画像を投影し、その画像や文字が指に反応するシステムで、1秒間に100コマの撮影が可能なモーションキャプチャー用カメラの技術を応用し、速い動きも正確にとらえることで、鑑賞者が紙をどんなアングルに置いたとしても、情報を表示することができる画期的なもの。手をかざすことで情報が映しだされるこのインタラクティブな装置は、今回の展示のテーマにピッタリです。
リーディング・エッジ・デザインによるナビゲーションシステム
「骨」展では、全体的に動くもの、観客が体験できるインタラクティブな作品が多く出品されています。構造や仕組みから考えることは、物との新しい関係性や体験をクリエイションするということなのかもしれません。この展覧会で、新たな構造や仕組みのあり方について考えを巡らせてみてはいかがでしょう。














![vol.16 池田亮司+/−[the infinite between 0 and 1] vol.16 池田亮司+/−[the infinite between 0 and 1]](/museum/oste/vol16/images/bn_vol16.gif)

















