アイ・ウェイウェイ展―何に因って?

  • 展覧会ガイド
  • キュレイターの声
『蛇の天井』2009年

『蛇の天井』2009年

中国のダイナミズムを感じる!艾未未的中国現代美術案内

現在、中国現代美術界で最も重要なアーティストのひとりであるアイ・ウェイウェイ。2007年に「ドクメンタ21」にて1001人の中国人を招待した「童話」プロジェクトで注目を集め、2008年の北京オリンピックでは、北京国立競技場(通称「鳥の巣」)の設計をスイスの建築家・ヘルツォーク&ド・ムーロンと共同で行ないました。
そんなアイ・ウェイウェイの日本での初めての個展が東京・森美術館で開かれています。スケールの大きな作品がたくさん並び、中国美術のダイナミズムを感じられる展覧会に注目が集まっています。

アートと機能性

一歩足を踏み入れると、そこは発酵した茶葉を濾したような匂いが充満している室内。目の前には、『1立方メートルのテーブル』があります。1立方メートルとは、三次元の世界(つまり私たちが生きている世界)において基礎的な単位であり、それをそのまま彫刻にしたこの作品は、土地というもっと大きな範囲を捉え、単位の規則性やミニマルな美しさを建築的に表現しています。さらに、テーブルとしての機能性も持ちあわせており、アートとデザイン、日常と非日常を跨いでいる作品といえます。

左『無題』2006年、右『1立方メートルのテーブル』2009年

一番目の展示室のようす。左『無題』2006年、右『1立方メートルのテーブル』2009年

その左側をみるとこげ茶色の立方体があり、部屋にあふれる茶葉の香りは、その『1トンのお茶』と奥にある『茶の家』からきていることが判明しました。『1トンのお茶』は茶葉を固めてから発酵させてつくるプーアール茶を1立方メートル、重さ1トンにして圧縮した作品。また、『茶の家』は『1トンのお茶』同様に、プーアール茶でつくった家で、これらもミニマルかつ建築的な作品。これらの作品の規則的で機能的なミニマルさは、静謐かつ力強さを感じさせてくれます。そして、会場に満ちているプーアール茶の匂いが、これからさらに深くなる“中国の世界”へと誘(いざな)ってくれます。

『茶の家』2009年

『茶の家』2009年

アートの原点は日常から

「文化大革命の時代、どこの学校にもあった」といわれる平行棒。それを枠組みとし、その隙間には、「どうやってこんなにピッタリはまったんだろう」と感心するぐらい一分の無駄もなく薪材が詰められている作品『平行棒』。それはまるで完成されたパズルのように美しく、ひとつの彫刻としてそこに存在しています。

左『中国の地図』2008年、真ん中奥『中国の丸太』2005年、右『平行棒』2006年

左『中国の地図』2008年、真ん中奥『中国の丸太』2005年、右『平行棒』2006年

その奥には、釘を使わない、伝統的な組木の技法により、中国の地図を象った作品『中国の地図』や木の中心に空洞をつくることで中国の地図を表した『中国の丸太』があり、さらに、部屋の左側の長方形のスペースをつかって、箪笥に開けられた穴で月の満ち欠けを表現している『月の箪笥』が展示されています。これらは、木の温かみや職人の技と伝統を感じさせる建築的スケールでつくられた彫刻で、身近なものを題材に、機能性とアートの領域を行き来しています。

『月の箪笥』2008年

『月の箪笥』2008年

自転車のパーツがつなげられて、輪になっている『フォーエバー』。使われているのは実在する国民的自転車メーカー、フォーエバー(永久)社の自転車です。本来の機能を失った自転車のパーツは、それだけでもモノとしての造形美を感じさせ、「デュシャンのレディメイドを思わせる作品」だという評にもうなずけます。また、モチーフの自転車は、ひとりひとりの漕ぐ力が終結し、集まった巨大なパワーが全体を支えている中国という国家を感じさせ、中国の近代化の歴史を象徴しているようにも感じられます。

『フォーエバー』2003年

『フォーエバー』2003年

また、特に近年、アーティストが世界的にメジャーなブランドをモチーフにして、急激に発達した中国市場経済の問題点を批評することがありますが、アイ・ウェイウェイはその手法を使いはじめた最初のひとりと言えるかもしれません。たとえば、1994年から発表し始めた骨董品のシリーズがありますが、そのうちのふたつである『瓶に入った唐の娼婦』と『コカ・コーラの壺』が今回出品されています。これらの作品では、世界的なブランド「ABSOLUT VODKA」のボトルに唐時代の娼婦の石像を入れることで、伝統的工芸品と大量生産品、古代と現代、東洋と西洋という対するふたつの概念を定義。また、骨董品の壷の表面にコカコーラのロゴを書くことで、中国の歴史と近年のグローバリズムを対比させています。

『瓶に入った唐の娼婦』1994年

『瓶に入った唐の娼婦』1994年

アートは社会における哲学

「コンテンポラリー・アートとは
何らかの形ではなく、
社会における哲学である」
(by アイ・ウェイウェイ)

アイ・ウェイウェイの哲学とはどういったものなのか。アイ・ウェイウェイが捉えた社会とはどういうものなのか。そんなことを考えながら、展示室を進んでいく。すると、天井に蛇のような形が見えてきます。これは、見た目そのまま『蛇の天井』という作品で、2008年5月12日に起きた四川大震災へのオマージュとしてつくられました。 約9万人の死者・行方不明者を出した四川大地震で校舎の倒壊の犠牲になった多くの子どもたちを弔うという意味を込めて、通学用のバックパックを繋げてつくられた蛇。一説によると古来中国では、蛇は復興のシンボルとされています。場所によって、大きさの異なるバックパックをパーツとして組みあわせながらひとつの大蛇をつくっていくようすは、およそ13億人という莫大な人口や多様な民族が合わさって成り立つ国、中国を象徴しているようにも思えます。

『蛇の天井』2009年

『蛇の天井』2009年

最後の展示室で鑑賞できる『童話』はこれまでのアイの作品とは志向が少し異なっています。これは1001人の中国人を2007年にドイツで開かれたドクメンタというアートフェスティバルに招くというインスタレーションです。1001人のうちの大半は、少数民族や農民といった海外へ行くこととは一生無縁の人たちで、年齢も2歳から70歳と幅広い人が参加しました。参加者だけでなく、このプロジェクトの成立のためには多くの人が協力をし、1001人の移動すべてが作品の一部となりました。 今回の展示では、プロジェクトを記録した映像が上映されており、さらに、映像を観るスペースには、清の時代につくられた1001脚の椅子が並んでいます。これは実際にドクメンタでも展示された『童話―椅子』という作品です。さまざまな形の椅子が間隔をほとんど空けずにビッチリと並んでいるようすは、会場全体に荘厳な面持ちを加えています。

『童話―椅子』2007年

『童話―椅子』2007年

ひとつひとつの作品のサイズも然ることながら、内容のスケールの大きさに圧倒されてしまう今回の展示。文化と民俗の複雑さ、また“激動の国、中国”のダイナミズムを感じさせながらも、どこかミニマルで静謐な印象を与えるアイ・ウェイウェイの作品。そこから醸しだされる懐の深さは、中国という国がもつ大きさなのか、はたまたアイ・ウェイウェイ本人の包容力なのでしょうか・・・・・・。



写真・岡本 隆史