サイバーアーツジャパン―アルスエレクトロニカの30年

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オーストリア・リンツから、アルスエレクトロニカがやってきた。

30年の歴史を持つアルスエレクトロニカの受賞者を中心に、日本のアート&テクノロジーに関する展示が東京都現代美術館で開催されています。同展は、文化庁メディア芸術祭の協賛事業であり、連携企画も展開されていました。
アルスエレクトロニカの歴史から、歴代受賞者による展示、デジタルパブリックアートなど、約25プロジェクト・50作品で構成されている「サイバーアーツジャパン」展を見て、メディアアートの今後について考えを巡らせてみてはいかがでしょう。

アルスエレクトロニカの歴史

地下の会場に向かうため、エスカレーターを降りていくと、その途中で何か聞こえてくることに気がつきます。注意深く耳をそばだてると「please watch your step」というアナウンスに混ざり、「please watch media art」などという言葉が聞こえ、ここで既にメディアアートの洗礼を受けることになります。

入り口

エントランスのエスカレーターやガラス窓、外の池、男女トイレにも作品があり、アルスエレクトロニカ2001の垂れ幕と『SLOGAN GENERATOR』(h.o+株式会社電通)で迎えられる。

入り口正面には、イラストレーターの金子ナンペイ氏による、アルスエレクトロニカ2001のテーマ画像『TAKE OVER』の垂れ幕が、アルスエレクトロニカがとらえた日本のメディアアートの状況を象徴するものとして、飾られています。

その右側の壁にあるのは、h.o+株式会社電通による、『SLOGAN GENERATOR』。アルスエレクトロニカと東京都現代美術館のウェブサイトに引っかかる検索ワードがその場でランダムに映し出され、その言葉がスローガンとして缶バッジになり、持ち帰ることができる、というインタラクティブな広告作品です。

ふきだし

『Buzz Bubbles』(h.o+株式会社電通)は、アルスエレクトロニカのカタログに関する検索ワードをリアルタイムで拾いだし、クチコミのふきだしで表すシステム。それぞれの年度のカタログの上に関連ワードが表示されている。2009年のフェスティバル時にも展示された。

昨年、アルスエレクトロニカは30周年を迎え、トロフィーや全受賞者名・審査員名を網羅して構成されたグラフィックや授賞式映像など、その30年の歴史を知るための資料を最初の部屋で見ることができます。

映像

1979年にオーストリアのリンツで始まった、世界最大の電子芸術フェスティバル「アルスエレクトロニカ」。毎年9月に開催され、約5日間に10万人以上が参加している。2009年1月には常設展示を行なうアルスエレクトロニカ・センターも新装開館した。

古くは冨田勲のドナウコンサートや初の受賞者・河口洋一郎をはじめ、第一次ジャパンアタックといわれた1997年にも、坂本龍一や岩井俊雄、多くの日本人作家が国際的に評価されました。それ以後今日まで、「メディアアートは日本の国技」と明和電機の土佐信道氏が言うように、メディアとアートの関係のなかでさまざまな作品が生み出されてきました。

日本特有のデバイスアート

2003年、明和電機がアルスエレクトロニカにて行なったパフォーマンスは、ヨーロッパの人々に衝撃を与えました。アートとテクノロジーを組み合わせたパフォーマンスはとても日本的だと評価され、現在では日本独自のガジェット的な「デバイスアート」のメンバーとしても活躍しています。八谷和彦、坂本龍一×岩井俊雄、池田亮司ら受賞作家の展示空間に続き、今回は明和電機のこれまでの作品を体系的に並べています。

明和電機

魚をモチーフにした『魚器』シリーズや、2003年にインタラクティブアート部門で準グランプリを受賞したオリジナル楽器『ツクバシリーズ』から、最新作の『オタマトーン』まで、明和電機のクロニクル展示。

ポストペット

1998年にドット・ネット部門で準グランプリを取った『ポストペット』(八谷和彦)

また、その時どきのテクノロジーを使いながら作品をアップデートしていくのは日本人作家のひとつの特徴ですが、八谷和彦の『PostPet』もそのひとつ。今回は、DSやtwitterバージョン(新作)が展示されていました。

スズキユウリ

レコード針をつけた車が解体されたレコードの上を走って音を鳴らす『Physical Value of Sound』シリーズの『Sound Chaser』(スズキユウリ)

日本人作家の作品というのは、なかなか分類が難しいといわれます。たとえば、スズキユウリの『Physical Value of Sound』はアルスエレクトロニカのインタラクティブアート部門とデジタルミュージック部門の両方でノミネートされました。それは、日本人アーティストが既存のジャンルを超えて新しい試みをしているという証でもあるのかもしれません。

アルスエレクトロニカ・センター開館のサウンドイベントを手がけた真鍋大度の『Copy Visualize Instrument』。顔につけた電気刺激装置により、顔の表情がハッキングされ共有されるというこの作品は、19世紀の医学実験にも発想の源を持ち、テクノロジー、身体性、音が融合した作品で、今後のメディアアートの方向を考える上で興味深いもののひとつです。

クリスタ・ソムラー&ロラン・ミニョノー

今回、唯一の外国人アーティスト、クリスタ・ソムラー&ロラン・ミニョノー。IAMASで教鞭をとっていたこともあり、日本とは関係が深い。

リンツ大学を拠点に活躍するクリスタ・ソムラー&ロラン・ミニョノーの『Life Writer』。タイプライターを叩くと、虫のような人工生命が生み出され、それがまた増殖していく。旧式の装置から、最先端のテクノロジーでつくられた新しいデジタル生物が創造されていくそのギャップが、生命の誕生の変遷といまの社会問題を想起させるでしょう。

4人のコラボ作品

3D映像を手がけたCGアーティストの森野和馬はアルスエレクトロニカ1998で準グランプリにも入賞している。

平野啓一郎、中西泰人、森野和馬、ケンイシイら4人のコラボレーション『ドーン』は純文学作品を視覚化する試み。注目を集める3D映像、文学、音楽、インタラクティブ・インスタレーションなどジャンルを超えた融合は、メディアアートの新しい形として、注目したいところです。

次の世代に向けて

アトリウム(吹抜)では、今後のメディアアートの可能性を感じさせる作品が展示されています。デジタル技術によるパブリックアートとして、鈴木康広と東京大学による『「デジタルパブリックアートを創出する技術」プロジェクト』シリーズが展開され、岩田洋夫の新作『Media Vehicle』、tEntの『call<->response』(ハイブリッド・アート部門受賞)、JAXA宇宙ステーション(ISS)「きぼう」による微小重力下での芸術実験ミッションなどがあり、どれも新しいアートの領域を示唆しています。

宇宙

「飛天プロジェクト」や「墨流し」「宇宙モデリング」「moon score」など実験的な芸術活動に加え、国立天文台4D2Uプロジェクトも紹介されている。

出口付近には、インターネットを使った作品がふたつ。ひとつはエキソニモの新作『ゴットは、存在する』で、本物のトロフィーが使われ、ネット上で「祈り」という検索ワードにひっかかる画像や「神」という言葉が含まれるTwitterのコメントなどをリアルタイムで表示・変換させています。この作品は、ICC(NTTインターコミュニケーションセンター)とも連携されています。

もうひとつは、渡邉英徳の『Ars Electronica Archive in Second Life』。歴史的な展示風景や受賞作家のアーカイブがセカンドライフ上に展開されています。これは、第13回文化庁メディア芸術祭会場とつながっており、Webカメラを通して向こうの会場にいる人の顔を見ることができました。

加えて、今回は、展覧会と観客をつなぐ、新しい試みがなされていました。 CO2から会場の混みぐあい、マウスの動きからインターネットでの盛り上がりをリアルタイムでビジュアル化する『呼吸する美術館』やポストイットで展示の感想をWeb上に投稿できる『Post-Visit Board』など、メディアアート展らしい、外とのコミュニケーションを重視した展示支援の提案です。

呼吸する美術館

会場の数カ所に慶應義塾大学SFC・筧研究室+東京大学・苗村研究室による展示支援のひとつ『呼吸する美術館』のモニターが設置されていた。

何人かの作家の作品は、リンツにあるアルスエレクトロニカ・センターで展示されています。機会があれば、実際にフェスティバルや現地に足を運んでみてはいかがでしょうか。



写真:岡本隆史

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