「考え、触れ、話す」クリエイティブ・カンファレンス

Tokyo Graphic Passportは、「Think, Touch, Talk」をテーマにしたクリエイティヴ・カンファレンス・イベント。講演や展覧会など複合的な企画を通して、グラフィックデザイン、写真、イラストレーション、モーショングラフィックなどを含む視覚表現の最前線を紹介します。2009年の初開催以降、世界の表現を東京へ、また東京の表現を世界へ発信する場として発展を続けてきました。2011年度は9月のパリ、ポンピドゥー・センターでの開催に続き、10月28日から10月31日にかけて東京の3331 Arts Chiyodaで開催されました。今回は文化庁メディア芸術祭も国内巡回事業「文化庁メディア芸術祭ネットワークス」で参加。その報告も含め、開催の様子をレポートします。

会場エントランス

会場エントランス

Tokyo Graphic Passport(TGP)を主催しているのは、デザイン、出版、web制作、映像制作などをてがけるディー ディー ウェーブ株式会社。世界各地の注目クリエーターの動向を紹介する日英バイリンガル雑誌『+81』も手がけています。同社の山下悟代表に、TGPが始まった経緯を伺いました。

ディー ディー ウェーブ株式会社代表 山下悟さん

ディー ディー ウェーブ株式会社代表 山下悟さん

「海外の都市ではグラフィックデザインなどにかかわるカンファレンス(協議会)主体のイベントがよく開催されていて、参加してみると非常に面白く、参考にもなりました。日本にはまだあまりそういった試みが少ないようで、ならば自分たちでやってみようと思ったのがきっかけです。また、私たちの雑誌『+81』でも15年間、世界のクリエイターたちをインタビューなどで紹介してきました。その現場で感じた楽しさやインスピレーションを、より直接的に皆さんと共有したいという思いも重なっています」。

2009年の初回はカンファレンス中心で始まり、翌2010年には企画展も加わりました。そして今回は、より実践的な授業プログラム「Academy」も登場。「いわばクリエイティブの1日留学」と山下さんがいうように、日本はもちろんオランダ、ポーランド、ノルウェーなどヨーロッパからも、先進的デザインで知られるクリエイターが講師陣として招かれました。こうした複合的なアプローチで、「パスポート」の名の通り世界のクリエイティブシーンを旅するような体験が、TGPの特徴といえるでしょう。

「Portfolio Viewing」セクション

「Portfolio Viewing」セクション

今回は展覧会プログラム「Exhibition」を中心に、その様子をご紹介します。会場の3331 Arts Chiyodaは、小学校だった建物を改修したアートセンター。広いギャラリースペースに進むと、まず目に入ってくるのは賑やかな「Portfolio Viewing」のセクションです。グラフィックデザインを軸とした多ジャンルから参加を募り、選出されたクリエイター25組がそれぞれのポートフォリオを一堂に展示します。グラフィックデザイン、写真、ペインティングなどメディアもさまざま。内容に加えてその展示方法も、壁一面へのプレゼンテーションからコンピュータを使ったものまで、個性が感じられました。

会場エントランス

「Portfolio Viewing」:ステンシル技法を用いた赤池完介さんの展示

東京から世界へ「Tokyo - Japan Graphics」

対象的に、「Tokyo - Japan Graphics」ではグリッド状に整然と並んだグラフィックが競演。ここでは東京拠点の著名クリエイターたちによるポスターとタペストリーが出展されていました。佐藤可士和さんやSemitransparent Designなど、計20組が参加。『Burst Helvetica 2』で第14回文化庁メディア芸術祭アート部門の審査委員推薦作品に選ばれた稲葉英樹さんや、第11回アニメーション部門の同推薦作品『コペット』に参加した青木克憲さんも出展しています。輸送現場で見かける武骨なパレットに積み上げられたポスター群は、東京から世界への発信を示しているようでもあります。これらの作品は購入可能で、売上は東日本大震災の復興のために寄付されます。

「Tokyo - Japan Graphics」セクション

「Tokyo - Japan Graphics」セクション

展示エリアの一角では、東京展に先立つ9月にパリのポンピドゥー・センターで行われたTGPの様子も紹介していました。前出・山下さんの知人がTGPの活動を同センターのキュレイターに紹介したところ高い関心を示し、海外展が実現。会期中は約8万人の入場者を記録したそうです。山下さんは、海外への発信の重要性も語ってくれました。

「先達の積み重ねのおかげもあり、日本のデザインは良い、すごいという評価があるのも事実。しかしそこで満足しては、今後厳しいし、国際的な場に出て行くことの重要性をもっと考えるべきだと思います。そこでは日本での知名度とは関係なく、より客観的な評価がなされますから、良いものは良いし、ダメなものはダメという反応もはっきり出てくる。実際にパリでもそうした形での関心の高さを感じました」。

「Tokyo - Japan Graphics」:第15回文化庁メディア芸術祭のアートディレクター、佐藤直樹さんの作品も

「Tokyo - Japan Graphics」:第15回文化庁メディア芸術祭のアートディレクター、佐藤直樹さんの作品も

欧州各国のグラフィックデザイン最前線

今回の展覧会では、ヨーロッパからの先進的なデザイン動向も紹介しています。「Netherland Graphic Design」のセクションでは、オランダ、ハーグ市にある王立芸術アカデミーのType and Media修士コースの作品や、独特のタイポグラフィと色彩感覚で活躍する気鋭のグラフィック・デザイナーMichiel SCHUURMANらが出展。デザインにおけるコミュニケーションを各々の方法論で探求するような表現が見られました。

Michiel SCHUURMANさんの作品群。手前の『Color in Dress』は生地にマーカーで自由に彩色できます。

Michiel SCHUURMANさんの作品群。手前の『Color in Dress』は生地にマーカーで自由に彩色できます。

「Poland Graphics」の空間では、戦争や政変など劇的な四半世紀を通過してきたこの国で、現在どのようなグラフィックデザインが花開いているのかを紹介。自身でファッションブランドも運営するポーランドのグラフィック・アーティスト、Michał ŁOJEWSKIさんに、出展作品のお話を伺いました。コム・デ・ギャルソンのゲリラショップをワルシャワに出現させる試みに参加するなど、日本とのかかわりも深い方だそうです。

Michał ŁOJEWSKIさんと彼の出展作品

Michał ŁOJEWSKIさんと彼の出展作品

「僕はファッションをメディアとして考えています。たとえばこの白いジャケットはLOVE(愛)をテーマに、いわゆる甘い愛だけでない本来の意味を考えつつ、聖書などから重要な言葉を引用してプリントしました。LOVEのLが逆なのは、中国では、本当に欲するものを逆さに記す習慣があると聞いたことに由来します」

もうひとつの出展作は、ポーランドの誇る作曲家、ショパンの生誕200年祭のポスターでした。誕生年である1810年から200年分の西暦表示を五線譜に見立てて並べ、その上にショパン直筆の音符が踊っています。「ポスターが実際に貼られると“この楽譜はすこし間違えている、直しなさい!”と言ってきた音楽の先生がいたのですが、“本人が書いたものだから無理ですよ”って答えました(笑)」と、愉快なエピソードも教えてくれました。

「Posters for Japan」の空間には落ち着いて観賞できるベンチが

「Posters for Japan」の空間には落ち着いて観賞できるベンチが

「Norway Graphics」の空間では、東日本大震災を受けて現地で生まれたプロジェクトが紹介されていました。「Posters for Japan」は、オスロ在住の日本人有志を中心に被災地の支援活動を行っています。ノルウェーや日本などから106人の建築家、デザイナー、写真家、アーティスト等が「思いやり/thinking of you」をテーマに制作したポスターを展示販売。その売上金は寄付されます。5月にオスロで好評を得たこの企画、今回はノルウェー作家の作品中心に構成されました。『ヒーシーイット アクア』で第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の奨励賞を獲得したタイ出身のウィスット・ポンニミットさんによるポスターもありました。

ウィスット・ポンニミットさんの作品(写真中央)

ウィスット・ポンニミットさんの作品(写真中央)

グラフィックデザインは「文化のパッケージ」

今回は、文化庁メディア芸術祭もこのTGPに参加。展覧会内で「Film」セクションとして、第14回の受賞作品や審査委員会推薦作品を集めた特別プログラムを上映しました。バラバラになった日本語のオブジェが歌い手の移動と共に歌詞の形を成していく『アルクアラウンド/サカナクション』(作者:関和亮/エンターテインメント部門優秀賞)や、線だけで高波や滝を描いたモーショングラフィックス『Locus』(作者:横地政樹/アート部門審査委員会推薦作品)など9作品が登場しました。

関和亮『アルクアラウンド/サカナクション』©ビクターエンタテインメント株式会社 / 株式会社ヒップランドミュージック

関和亮さんの『アルクアラウンド/サカナクション』
© ビクターエンタテインメント株式会社 / 株式会社ヒップランドミュージック

このほか、展覧会初日の会場では前述「Tokyo - Japan Graphics」の出展作家のひとり、OHGUSHIさんによるライブペインティングも行われました。筆そのものの上で絵の具のグラデーションをつくり、白いカンバスに美しい陰影を描いていきます。何が出来上がるのか? と見守る観衆の前に現れたのは、メイクアップを施した現代的な女性の横顔と、琳派の画風をも思わせる梅の木のコンビネーション。完成後は入場口に展示され、訪れた人を出迎えていました。

OHGUSHIさんによるライブペインティング

OHGUSHIさんによるライブペインティング

会期中は、出展作家を含む講師陣による「Academy」も開催。インパクトのあるタイポグラフィなどで知られるアートディレクター/グラフィックデザイナーの古平正義さんの授業では、好きな言葉を自分流のイメージでタイポグラフィ化。古平さん自身の文字を使った映像作品なども紹介しつつ、メディアに対するデザインアプローチを身近な存在から学びました。いっぽうで、Annelys de VETさんの講座では、文化・国民性や社会状況との関連でデザイン思想を論じるなど、バラエティに富んだレクチャー群が開催されました。

最後に山下さんへ、現代におけるグラフィックデザインの魅力と可能性を伺いました。

「グラフィックデザインは広い意味で“文化のパッケージ”。ですから日本の良さを伝えたいなら、良い中身を作るのは当然で、その文化をさらに覗き込みたくなるデザインも重要だと考えます。それは平面のデザインも、webも、モーショングラフィックも同様。また、必然的に経済と連動する面もあるので、いまは南米やシンガポールにも面白い動向があるんですよ。日本は居心地のいい便利な場所だと言われてきましたし、実際そういう面はあります。しかしそこに安住せずに世界とコミュニケーションしていく姿勢がいま、大切なように思います」。

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