Vol.4 MELTING POINT(メルティング・ポイント)

ジム・ランビー
courtesy: the artist, The Modern Institute / Toby Webster Ltd., Sadie Coles HQ and Mizuma Art Gallery

MELTING POINT(メルティング・ポイント)展
【開催期間】 2007年7月21日(土)〜2007年10月14日(日)
【会場】 東京オペラシティアートギャラリー

ジム・ランビー、渋谷清道、エルネスト・ネトという、三者三様のアーティストが「Melting Point(融点)」というひとつのテーマのもと、ひとつの場所に集って繰り広げるインスタレーション。鑑賞者は、実際に作品の中に入り込むという身体的な体験を通して、それぞれの作品と対話することになります。今回は、東京オペラシティアートギャラリーに行ってきました。

強烈な幾何学模様:ジム・ランビーの部屋

会場はアーティストごとに3つの部屋にわかれています。最初の部屋はジム・ランビー。金銀、白黒のビニールテープが一面を覆っている床も、作品のひとつ。この作品『ゾボップ』は、ジム・ランビーが空間と対話をしながら、展示会場ごとに毎回制作しています。ボランティアの手も借りつつ、時間をかけてテープを貼っていくという行為が、つくる人と場所をつなぎ、また完成した作品を介して、会場に足を踏み入れる鑑賞者が空間と一体化するのです。立っている場所や視点を変えると、空間はもちろん展示作品の見え方も変化します。

会場の壁際にぽつんと置かれた1本の杖。カラフルな糸でぐるぐる巻きにされた『サイケデリック・ソウル・スティック』も、ランビーが必ず展覧会ごとにつくる作品だそう。祈りの杖ともいえるこの作品の中には、煙草の吸い殻やボトルの蓋といった身の回りのものが入っているそうです。「彼は偶然性を大切にする作家で、最初からすべてを決めるのではなく、場所にゆだねるのが好きなんです。フィクションというよりも、日常から1歩踏み込んだ、その奥にある何かを感じさせる作品をつくっています。鍵穴の形をした『ボディロックス』も鑑賞者が通り抜けられるようになっていて、ちょっと意識を変えて普段の生活を違った視点で見ると楽しいのではないかと感じさせてくれますね」(北澤氏)

クラッシュした鏡によってコーティングされ、壁に置かれた木製椅子
ジム・ランビー 『アンディスコ・ミー』
courtesy: the artist, The Modern Institute / Toby Webster Ltd., Sadie Coles HQ and Mizuma Art Gallery

静謐な海の底:渋谷清道の部屋

続いての空間は、「人魚姫」の話をテーマにしたという渋谷清道のインスタレーション。白い通路に導かれるように進んでいくと、時間の動きが急にゆるやかになるような気分に。スパイログラフをモチーフとした泡のような模様が壁に浮き上がり、角をなくすことで空間に不思議な奥行きが感じられます。茶室のにじり口のような入り口をくぐり抜けると、そこが『ミステリーサークル/6番目の小さな海姫』という真っ白な空間。天井を見上げると、水面のような模様の隙間からやさしく自然光が差しこみ、まるで海の底から海面を見上げているような錯覚に陥ります。

渋谷清道 『ミステリーサークル/6番目の小さな海姫』
courtesy: the artist

「白一色の空間ですが、差し込む光の反射によって白が微妙に変化するんです。天気や時間帯によっても、空間の表情が変わります。通路の壁にあった泡の模様も、実は色のついた糸を使用していて、裏側から見るとカラフルなんですよ。それを白くすることで無に近づけています。角を無くし、色をなくすことで、私たちと作品の境界を溶かしていくのです」(北澤氏)静かな余韻を心に残す、異空間に迷い込んだような作品です。

有機的な皮膜の波:エルネスト・ネトの部屋

エルネスト・ネトの『それは地平で起こるできごと、庭』は、地平線あるいは水平線をテーマにした作品。空間を覆うように張られた2つの層から成り立っています。「横方向へのテンションと、上下の層をつなぐ部分やところどころに配された小石が生み出す縦のテンションが、有機的で自然な美しいフォルムを生んでいます」(北澤氏)じつはこの作品は、たたんでしまうととっても小さくて、巾着のような袋に入って到着したので驚いたというこぼれ話もありました。ライクラという丈夫で伸縮性のある布を、かなりの力で引っ張っているのだそうです。

エルネスト・ネト 『それは地平で起こるできごと、庭』
courtesy: the artist, collection of Ernesto Neto

身体をかがめて作品の下にもぐると、まるで川底を探検しているかのよう。布地にはところどころに穴があいていて、作品に触れないようにそーっと顔を出してまわりを見渡すと、作品の下とはまた違った世界が広がっています。宇宙のようだと感じる人もいれば、ミクロの細胞の世界だと感じる人もいて、受け取り方はさまざまですが、顔をのぞかせた鑑賞者同士の間には不思議なコミュニケーションが生まれます。

3人のアーティストがそれぞれの表現で、言葉ではなく感覚へと訴えていくインスタレーション。不思議な世界を体感してみてはいかがでしょうか。

ジム・ランビー略歴
1964年、スコットランド、グラスゴー生まれ
1994年、グラスゴー美術大学卒業
2003年のヴェネチア・ビエンナーレでスコットランド館の代表となるなど、現在、英国を代表する作家のひとりとして活躍している。


渋谷清道略歴
1970年、東京生まれ
1996年、東京芸術大学絵画科日本画専攻卒業
日本画の伝統的な素材や技法を巧みに用いながら、繊細で研ぎすまされた作品を生み出している。


エルネスト・ネト
1964年、リオ・デ・ジャネイロ生まれ
1997年、パルグア・ラガ・スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業
ブラジルを代表する現代美術家の1人で、布や香辛料など自然素材を用いて五感に訴える有機的な作品を生み出している。