『ダイヤモンドの丘の無垢な林檎の木』 ビデオ インスタレーション 2003年
【開催期間】2007年11月17日(土)〜2008年2月11日(月)
【会場】原美術館
ポップでカラフルですが、ただかわいらしいだけではない。私たちの固定観念を打ち砕くビデオインスタレーションを手がける女性アーティスト、ピピロッティ・リスト。ポジティブに生きる彼女の作品が美術館の空間と一体となったユニークな個展です。
明るい色彩にあふれた作品が印象的なピピロッティ・リストは、チューリッヒを拠点に活躍するスイス人アーティスト。2007年(第11回)文化庁メディア芸術祭アート部門で奨励賞を受賞した『Super Smile』の作者エフィ・ウーはピピロッティ・リストのアトリエで、さまざまなプロジェクトのポストプロダクションなどに携わっていました。
最初のギャラリーに展示されているのは、まるで空が降ってくるように、天井から床に向かって映像が投影される『星空の下で』。画面のなかに佇んでいると、さまざまな風景が自分のまわりを通り抜け、やがて迫ってくる人物の口の中に飲み込まれ、そして宇宙空間に放り込まれていく感覚を覚えます。
『星空の下で』 オーディオ ビデオ インスタレーション 2007年
ギャラリーを出て、階段の下を通り過ぎようとすると、どこからともなく聞こえてくる声。作品が見当たらない……と周囲を見回すと、足もとにありました。床に開いた小さな穴から、マグマの炎に包まれた女性がこちらを見上げて「助けて!」と叫んでいます。
『溶岩の坩堝で我を忘れて』 オーディオ ビデオ インスタレーション 1994年
以前からそこにあったかのように、何気なく廊下の壁に取りつけられた救急箱。これも『ヒーリング』という作品です。箱の横にある小さなモニターには、色鮮やかな赤血球が脈打つように流れていきますが、毒々しさはなく、どこか温かみを感じさせます。
大きな木にぶら下がる透明のプラスチックが、ゆらゆらとシルエットを揺らす美しいインスタレーションは、『ダイヤモンドの丘の無垢な林檎の木』。ゴミになってしまうプラスチックが、ダイヤモンドのようにキラキラ輝く作品です。床に置かれたクッションに座って眺めていると、室内にいるという感覚が消えて、まるで野原にいるような気もちになっていきます。
『ダイヤモンドの丘の無垢な林檎の木』 ビデオ インスタレーション 2003年
一方で、同じ展示空間の片側には、巨大な赤いソファーとフロアランプが置かれたリビングルームがありました。急に自分が小さくなったように感じながら、ソファーによじ登り、これまた大きくて重いリモコンを操作すると、目の前のTVでリストのビデオ作品を見ることができます。チャンネルは全部で15。あなたは、どの作品が好きですか?
『部屋』 オーディオ ビデオ インスタレーション 1994/2007年
手づくりのパッチワークのカーテンがかかった奥のサンルームには『膝ランプ』が展示されています。椅子に腰かけると、自分の膝の上に丸く映像が映し出されます。自分の身体を通して景色を見ているのか、膝の上に景色を抱えているのか、どちらでしょう?
『膝ランプ』(部分) ビデオ インスタレーション 2006年
1階では、大きなインテリアに驚かされましたが、2階のギャラリーには、小さなミニチュアの部屋が待ちうけていました。木箱という囲まれた空間のなかに小宇宙が広がる作品です。
『あなたの宇宙カプセル』 オーディオ ビデオ インスタレーション 2006年
「これは、もともと運搬の際に作品を守るための木箱なんです。その中に大事に守られているかのように、リストのベッドルームらしきものが配置され、彼女の家族の映像が映し出されています。運搬できる箱に収まるくらいのちっぽけな人生だけど、それは自分にとってとても大切なもの、という彼女自身の慈しみを覚える作品で、やさしさが感じられます」(学芸員、坪内雅美氏)
赤いソファー、青いドレス、黄色い花、スーパーマーケットに並ぶ色とりどりの野菜や果物、鮮やかな緑の葉……。リストの作品には、カラフルで空中を漂うような浮遊感が感じられると同時に、心地よさとは対称的なグロテスクなモチーフや暴力性を映像に取り入れていたりもします。
『エヴァー イズ オーヴァー オール』は、軽やかなステップで歩く女性が、手にした花でガラスを叩き割っていくという、可愛らしさと不穏な雰囲気が共存した映像作品です。「暴力的なシーンがあっても、リストのそれは観た後になぐさめられたような感じがするのが不思議。リストは、女性が女性らしく生きるための方法を探っている作家。彼女の作品は私たちにさりげない勇気のようなものを与えてくれるのでしょう」(坪内氏)
巨大な作品と極小の作品、身体を包みこむ映像と身体の中に抱える映像、観る人の視点を次々と変化させ、すでにある価値観を超えさせるのが、リストの魅力なのかもしれません。
『エヴァー イズ オーヴァー オール』 オーディオ ビデオ インスタレーション 1997年
今回の展覧会が開催されている原美術館は、かつては個人の住宅だった建物です。「美術館をプライベートな空間にしたい」と語っていたリストですが、その言葉通り、まるでリストの家に遊びに行ったかのような不思議な気分を味わうことができる展覧会となっています。
ミュージアムショップの奥にあるトイレの中にも、じつはびっくりするような作品がひとつ展示されています。どんなインスタレーションなのかは見てのお楽しみ。
1962年、スイス ラインヴァレーのグラブス生まれ
ミュージックグループのステージデザイナー等を経て、1980年代後半よりビデオインスタレーションを展開。
1997年、ヴェネチアビエンナーレに出品した『エヴァー イズ オーヴァー オール(Ever Is Over All)』が若手作家優秀賞を受賞し、注目を浴びる。各国の主要美術館や国際展で精力的に作品を発表しつづけている。現在はチューリッヒ在住。
『あなたに大賛成』












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