志賀公江
(しがきみえ)
1967年『マーガレット』増刊号に掲載された「走れ!カモシカ」でデビュー。「スマッシュをきめろ!」は『コートにかける青春』のタイトルでテレビドラマ化もされた代表作。その他、「おしゃれなシャンゼリゼ」「虹子ララバイ」など作品多数。
スマッシュをきめろ!
1969年~、集英社『週刊マーガレット』
走れ!かもしか
1967年、集英社『マーガレット』増刊号
デビュー作「走れ!かもしか」では陸上、「スマッシュをきめろ!」ではテニスを題材とし、自身の視点で画面描写を行い、それまでに無い少年マンガ的なスピード感で人気を博する女流スポ根マンガの先駆者としてお話をうかがった。
―― 子供のころからマンガを描かれていたのですか?
中学生のときから、石ノ森章太郎先生が監修されていた同人誌で描いていました。当時、マンガは少年誌だろうが少女誌だろうが、片っ端から何でも読んでいましたね。けれども、私が男の子っぽい性格の持ち主だったので、瞳キラキラお花ヒラヒラの少女マンガはどうにも苦手で、少年マンガのようなものを描いていました。それから高校を卒業して就職。働きながら描いて、19歳のときにデビューしたんです。
―― 就職先は東映アニメーションだったそうですね。制作のお仕事ですか?
いえ、アニメ制作とは関係のない事務職でした。とはいえ、就職面接の際に志望理由を聞かれ“将来マンガ家になりたいので、マンガに関係のある御社で働きたい”と答えたくらいですから、よく制作現場に遊びに行っては原画家の人がデッサンしているのを見ていました。事務職でしたが、マンガにつながるいろんなことを勉強しましたね。そのころの東映アニメーションには、宮崎駿さんなどたくさんの才能が集まっていました。いま思えば、すごいところにいたんだなと思います。
―― ところで、デビュー作以降のすべての原画をお持ちだとうかがいました。出版社に返却を促してこられたのですか?
返却してくれるようお願いした覚えはありません。催促しなかったにもかかわらず、原稿は掲載や連載が終わるたびに戻ってきました。ちなみに返却された原稿は、きちんと自宅のマンションに保管しています。
―― どのような状態で保管されているのですか?
作品タイトルを記した包みに原稿を入れて、出版社別にまとめて置いています。さらにそれを掲載された年代別にまとめれば、必要なときに目当ての原稿をすぐに取り出せるんでしょうけれども、そこまで整理するには至っていませんね
―― 代表作の「スマッシュをきめろ!」は「エースを狙え!」よりも掲載が早い、いわばテニスマンガの先駆けでした。テニスを描こうと思われたきっかけは何だったのでしょうか?
当時はスポ根マンガ全盛の時代で、バレーボールや野球を扱っているものはありふれていました。そこで、まだ扱われていないスポーツは何だろうかと考えているときに、“お嬢様スポーツのテニスがあるじゃないか!”と浮かんだのです。私は他の人がやってないことをやろうとする性格なのです。そのため、まわりからは“『マーガレット』の切り込み隊長”なんて呼ばれていました(笑)。「スマッシュをきめろ!」という作品が生まれたのは、切り込み隊長らしく、他の人がやらないことに挑戦していった結果ですね。
―― 「スマッシュをきめろ!」は、臨場感たっぷりにテニスが描かれています。志賀さんご自身はテニスの経験者なのでしょうか?
中学、高校と軟式テニスをしていました。テニスのリアリティやリズム感のようなものが出ているとしたら、そのときの経験のおかげですね。
―― とはいえ、作中に出てくるローリングフラッシュという魔球は、現実ではありえないですよね?
硬式ボールだとできませんが、軟式ボールはゴム製なので、うまく打てば魔球のように変化します。軟式ボールには、ヘソと呼ばれる空気の注入穴があるんです。そのヘソが地面に当たると、イレギュラーバウンドしてしまうんですよ。そういえば「スマッシュをきめろ!」を描いているころに母校へ遊びに行ったら、コーチや卒業生たちが、“ローリングフラッシュだー!”と言いながら打ち合っていたのを思い出しました(笑)。ですから、実は魔球でもなんでもなくて、軟式では実際にできるものなのです。もちろん、あんなにぐにゃぐにゃ曲がる球を硬式テニスで打てたら魔球ですけれども。
―― そのローリングフラッシュの場面も含めて「スマッシュをきめろ!」はいま読んでも大変おもしろい作品です。これからご覧になる読者のために“ここを注目して読んでほしい”といったポイントを教えていただけますか?
ひとつはスピード感でしょうか。「スマッシュをきめろ!」は少女マンガでありながら、スポ根全盛時の少年誌に載っていた他のスポーツマンガ並みのスピード感があります。そういった少女マンガはいまでこそよく見かけますが、当時は珍しかったんです。それともうひとつは、主人公の目線で一緒になってスポーツを楽しめる、ということですかね。陸上を描いたデビュー作の「走れ!かもしか」なんかも、写真や資料をもとにして描いたのではなくて、実際に私自身がグラウンドを走ったうえで、目に映る景色や体感したスピードを表現しました。つまり、「走れ!かもしか」も「スマッシュをきめろ!」も、選手の目線になって描いたのです。これも当時としては斬新な構図でした。新しかった、という点にも注目してほしいですね。
―― 雑誌掲載時と1998年に文庫で出版されたものだけに最後の3話があるのですが、それまでの単行本になかった理由があるのでしょうか?
いえ。集英社の『マーガレット』の単行本化の初期の初期の頃で、連載当初は単行本化するという概念がまだ無かった時代でした。だから単行本用にページを後から調整しようと思ったら、ページ数が余ってしまったので減らしてしまったんです。逆にページが足りない場合は、増やすという具合に調整しています。ですから文庫化にあたって復刻させて頂きました。単行本化する時に読めたり、読めなかったり、コマ割りが変わったり、そういった違いはマンガ独特の文化かも知れませんね。(了)